青春カーニバル

「なによ、そわそわして」
 政宗がさっきからダイニング兼リビングにもなっている部屋の中で歩き回っていたかと思うと、突然、「Ah〜〜!」と叫んだかと思うと頭ぐしゃぐしゃ掻いて、今度はキッチンで夕食の支度をしている私の周りをうろうろし始めた。
 急に、どうしたのだろう。お腹がすいて辛抱たまらないのかな? 成長期だしね。
「お腹すいたの?」
「違う!」
 政宗は私に即答して、それでも何か気になるのかちらちらとこっちを見て、うろうろうろうろ。私は夕食の支度のためにキッチンの中を移動するから、政宗とぶつかりそうになって危ない。
「手伝わないなら座っててよ」
 いつもなら、こんなこと言わなくたって、ソファに座ってテレビ見てるか雑誌読んでるかしているのに。……もっとも、以前なら合コンに行っててこんな時間にここにいるのはごく最近のことだ。女の子ともぱったり遊ばなくなったので、金曜日に私が部屋から出て行く必要は無くなったのだ。
 ようやく政宗はソファに座ったものの、やっぱり気になるのかちらちらちらちら私のほうを見ている。視線が会うとぱっと輝かしいまでの笑顔を浮かべるから、私が不思議そうに眉を寄せると、しゅんと沈んだ表情をして視線をそらす。その繰り返しだった。なんだか巨大な犬が飼い主にかまってもらえなくて拗ねているかのような反応だ。
「なにかあったの?」
 出来上がった味噌汁をお椀によそって、テーブルへ運んだ。今日はてんぷらに、野菜の煮物、ぬかづけと味噌汁に、ご飯という純和食のメニューだ。
「ah......so......」
 いつもなら、歯切れのいい政宗がなにか言いにくそうに口の中でもごもご言っている。しかもこちらをちらちら見て、すぐに視線をそらしてまた、もごもごと口に言葉をこもらせる。
 あれ? なんだっけ……? 政宗は夏の生まれだから誕生日じゃないし……。
 ご飯を食べるときは、普通だ。いつものようにたくさん食べるし、「おいしい」とも言ってくれる。私も政宗も食べ終わって、私は食器を片付けるために立ち上がった。政宗がそれを手伝おうとしてくれたので、私はそれを止めた。
「今日は、デザートがあるから待ってて」
 そういうと、政宗はぱっと表情を明るくして「焦らしプレイか……いい度胸だ……」などと小声で呟いて、クククと笑っている。
 私はお皿にチョコレートシフォンケーキを乗せて、軽くあわ立てた生クリームを添えた。その上からミックスベリーを数個落とす。テーブルに持って行くと、政宗の嬉しそうな声がした。
「チョコシフォンだなんて、意味ありげだなぁ?」
 政宗はニヤニヤ笑いをしたまま、チョコレートシフォンケーキをフォークで突き刺した。
「初めて作ったんだけど、よくできてるでしょ?」
「……試作品かよ……」
 政宗は一気に肩を落として、シフォンケーキをフォークでつっつく。それでも食べるのをやめないで、「うまい」とか言いながら全部食べてくれた。
「政宗、お風呂沸いているから先に入っていいよ。片付けは私やるから」
 政宗はしょんぼりした表情で頷いて、風呂の支度のために部屋に戻った。その後すぐに、政宗がすごい勢いで、キッチンまでやってきた。洗物をしている私の背後に立ってぎゅっと抱きついてきた。
「あんた、やっぱいい女だ」
 私の肩に回されている手に視線を移すと、政宗の手にはラッピングされた四角い箱が握られている。
 あーあ、もう気がついちゃったか。
「ベッドの枕元にチョコ置いたのあんただろ?」
 確認をするというより、確信を持ってわざと質問しているようだ。耳元から聞こえてくる政宗の声は、羽が生えているかのように軽やかだ。
「サンタさんじゃないの?」
「バーカ、バレンタインにサンタがチョコ運ばないだろ。my dear」
 耳元で聞こえる政宗の声がくすぐったい。
 いつまでもぎゅうぎゅう抱きついてくるので、洗い物の手を止めてタオルで手を拭いてから政宗に向き直った。
「thank you my dear」
 真剣な表情で私の腰に手を回して囁く姿はとても十九歳には見えないほど、慣れた雰囲気だ。まったく緊張などしてないみたい。なんだか、それはそれで年上としては悔しい限りなので、仕返しをすることにした。
 本当に、仕返しになれば良いけど。
「一緒にお風呂に入る?」
 にっこり笑って私が尋ねると、政宗は驚いたことに左目を丸く大きく開いて頬を赤く染めると、二歩後ろに下がった。
「な、なに言ってんだよ」
 珍しい、慌ててる。
 もしかして、いままで付き合ってきた女の子からはそうやって口説かれたことなんかないのかな? 自分が口説くのはいいけど、口説かれたことがないから免疫がないとか……。
 予想通りだ。
「えー? どうしたの、政宗」
「あ、そ……なんだっていいだろ!」
 恥ずかしいのが耐えられないのか、政宗はくるっと体の向きを変えて来たときと同じように走り去っていった。

 結局、その晩は政宗が私の部屋に強引に入ってきて、同じベッドで眠った。私は抱き枕のようにぎゅうぎゅう抱かれて、ちょっと苦しかったんだけどね。



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