ジェームズとリリーの結婚式の日、リーマスと連れ立っては出席した。はにかむ様に幸せな笑顔を見せるリリーの花嫁姿に、は感激した。卒業しても、彼らはよく連絡を取り合う仲で、それは永遠に続くものだと誰もが思っていた。
だけれど、時代の流れは悪いほうへと向かいヴォルディモート卿が台頭している頃だった。の家に、何度もヴォルディモート卿の使者が訪れ味方になるように、と脅された。は持ち前の機転と、誇りの高さで使者を追い返してはいたが、それが長く続かないことを知っていた。
ジェームズと、リリーも脅威に晒されていることに気がつき、はダンブルドアに相談することを勧めた。
今日は、珍しくジェームズとリリーがの家に遊びに来ていた。家といっても屋敷なので、二人は居心地が悪そうである。
「ダンブルドアに相談してよかったよ。も心配ならするといい」
「大丈夫、うちはそれほど大変でもないから」
「それで、リーマスとはどうなってるの……?」
「どうって……」
は言葉に詰まった。リーマスとは学生の頃から付き合いがあり、それは今でも続いているが特に、なにもない。ジェームズとリリーが結婚することを勧めているのはわかっているけれど、こればっかりはどうしようもなかった。
「ゆっくり考えて行くわ。心配することは、ないから」
吸血鬼と人狼。これでパートナーが普通の魔法使いや魔女だったりしたら、さまざまな問題が浮上するだろうが、満月の夜を迎えても困ったことにはならない。最高の組み合わせだ。
幸せそうに笑った、に、ジェームズとリリーもつられて笑った。リリーは、すでにおなかに子供がいて、今度会うときには子供連れだね、とは微笑んだ。
それが、リリーとジェームズとの永遠の別れになるとはは知らなかった。
は、その日リーマスを呼んで家でディナーを食べていた。彼女の身の回りの世話をする執事が慌てて羊皮紙を手にしてに渡した。そこに書いてある内容に目を通して、は蒼白になって立ち上がった。リーマスは、不思議そうにを見上げる。
「ヴォルディモード卿が、反対する魔法使い達を狩り始めたわ。ここも、危ない」
は、すぐに屋敷中の者達を呼び集め、戦いの準備をさせた。
「ヴォルディモードを迎え撃つの?」
「まさか、仲間のところに逃げるのよ」
は、準備のできたものから順にある場所は移動するように命じた。
「リーマス、貴方もそこへ先に行ってて」
「そこには、何があるの?」
「ダンブルドアが、不死鳥の騎士団を創設して有志を待ってる。貴方はいくべきよ」
「は?」
「私は、ちょっと用事を済ませてからすぐに行くから」
リーマスは、言い知れぬ不安に駆られたががあまりに説得するのでついには、根負けして一人を屋敷に残して、リーマスは不死鳥騎士団を目指した。
「一人残るとは、馬鹿だな」
いつの間に現れたのか、広間で一人座るの前に黒衣の男が現れた。不思議なカリスマ性と、悪意に満ちた威圧感には背筋がぞくり、としたがそれを振り払うように胸を張って言い返した。
「ようこそ、ヴォルディモード卿」
「最後に聞こう、俺に味方する気は?」
「あるわけ無いでしょ、陰険野郎」
かつて、その言葉はシリウスがスリザリン生に向けた言葉だった。ヴォルディモードは高く笑い、呪文を使った。
吸血鬼の身体能力のおかげで、は難なくよけてヴォルディモードに呪文をかけようと杖を向ける。ヴォルディモードはすぐに呪文を打ち消して、に向かって呪文を繰り出した。
一進一退が続き、やがて均衡が崩れるときが来た。
ヴォルディモードは直接に呪文をかけるのをやめて、白木の杭をの寸前で出現させ、それをそのまま手での心臟を貫いた。
は、手から杖を取り落としその場に崩れ落ちた。
ヴォルディモードは、白木の杭を十字架の形に魔法で変えて、地面に倒れ伏すを見下ろした。
すぐに追いかければ、仲間にならなかった吸血鬼どもを狩れる、と考えた。そこへ、慌てたように駆け寄ってくる足音が響いて、広間へ扉が開いた。
リーマスが戻ってきたのだ。
瞬間、リーマスの目に入ってきたのは胸から血を流し倒れているとそれを、見下ろす黒衣の男。黒衣の男がヴォルディモードだと気がついて、リーマスは杖を取り出した。
「今は、何もせぬ。愛するものの死を知って、絶望するがいい」
そういって、ヴォルディモードは姿を消した。
リーマスは転がるようにして、血の海に倒れるを抱き起こした。
「すまない、やっぱり、離れるべきではなかった」
リーマスは自分の服が血で汚れるのも厭わず、を抱きしめた。はゆっくりと瞳を開けて、つらそうに話した。
「戻ってきたら……ダメじゃない。せっかく、逃がしたのに」
口から、鮮血が流れ落ちた。
「このぐらいの傷、吸血鬼の能力で、治るよね?」
「……無理だよ。吸血鬼の弱点は白木の杭で心臟を貫かれること」
の状態そのものだ。
「でも……約束したじゃないか」
「ごめん……ヴォルディモードと取引したんだ。……一門と、リーマスの命の引き換えに……私が滅びることを」
「そんなのヴォルディモードが守るわけ無いだろ!」
リーマスの瞳が、涙で揺れた。
も次第に息をすることでさえつらくなってきた。
ふと、は薄ぼんやりした瞳で、彼方のほうをみつめて呟いた。
「リーマス……私と……リリー……ジェームズ……シリウス、ピーターの……みんなで」
の目から、血の涙がぽろり、と零れ落ちあっという間に、の体は灰になって宙に霧散した。
「っ!!」
リーマスの悲痛な叫び声が、誰もいなくなった屋敷中に響いた。
その後、どうやってリーマスが不死鳥の騎士団の本拠地にたどり着いたか、彼はぼんやりとしか覚えていない。そこで、に頼まれたと、かつてのの従僕から厳重に封印された羊皮紙を手渡された。
『これを読んでいるってことは、私はもう、滅んでしまったあとなのかな。私は、貴方のこと守れたのかな? いつも、私は貴方に助けられて守られてばかりいたから、いつか貴方を支えられたら、って思っていた。
私は、それ、できたかな?
十五年たっても、私が戻らなかったら誰か、素敵な人をみつけて幸せになって。
リーマスなら、きっとできるわ』
十五年とは、灰になって滅んだ吸血鬼が、力を取り戻してよみがえる最大の時間なのである。
「十五年だなんていわず、僕はずっと待ってる」
羊皮紙を抱いて、リーマスはを失って初めて涙を流した。