ベッドの中で寒さに震えては目を覚ました。青色で整えられた部屋で、は目をこすりながらベッドのカーテンを開けた。眠い目をこすって、窓の外を見ると雪が今も降り続いている。
寒いわけだ……。
サイドテーブルに載せている時計を見ると、まだ早い。昨日から冬休みに入っていたので、まだ十分に眠れる。それでも、階下が騒がしいので、不思議そうにはサイドテーブルに載せている、日本語で書かれたカレンダーへ視線を向けた。
十二月二十四日。クリスマス・イブだ。
早くもプレゼントが到着して、談話室で騒いでいる声がここまで聞こえてきているのだろう。は、もぞもぞと着替え始めて、自分宛に届いているプレゼントを確かめた。クリスマスプレゼントは部屋に飾られたクリスマスツリーの根元に、あて先ごとに分けられていた。すぐに、は自分のプレゼントの山がどれだかわかった。
たった一つだけ、風呂敷に包まれたプレゼントがあるからだ。
日本にいる家族から送られたものだと判っているが、まさかクリスマスを祝ってくれるとは思わなかった。イギリスに留学した娘に誰からもプレゼントが来なかったら寂しいだろうと気を回してくれたのかもしれない。
他には、マルガリータ、ジェームズ、シリウス、リーマスからのプレゼントだった。マルガリータからは、羽ペンにつけるかわいいホルダーアクセサリーだ。花の形で、暗いところでみるときらきら光っていた。メッセージカードに、「持ち主のところに飛んで行くのよ。羽ペンを忘れても大丈夫ね」とマルガリータの筆跡で書かれていた。ジェームズとシリウスからは、手作りの悪戯グッツとメッセージカード。リーマスからは、文字が空中に躍り出てクリスマス・ソングを歌う不思議なメッセージカードだった。
最後に、恐る恐る家族からのクリスマスプレゼントを開いた。家族からのプレゼントが一番大きくて、厚みがある。大きさは百科事典ぐらいだが、風呂敷に包まれているところがまた、怪しい。
はそっと風呂敷を解いて、するりと現れた本に絶句した。
陰陽師の呪術辞典で、和紙に毛筆で書かれた手紙に冬休みの課題について長々と書かれていた。どうやら、両親は「メリー・クリスマス」というより、「冬休みだからたくさん勉強できるね」というつもりで送ってきたらしい。クリスマスの「ク」の字すら書かれていなかった。
精々、「あけましておめでとう」ぐらい書いてあったので、よしとしよう。
陰陽師呪術辞典は、の机の本棚にさっそく仕舞われて、マルガリータからもらった羽ペンのホルダーアクセサリーを持って階下に降りた。同室のマルガリータはすでにいなく、談話室にいるならお礼をしようと思ったのだ。
談話室に近づくにつれて、騒ぎ声が大きくなる。はマルガリータをみつけようと談話室できょろきょろしていると、マルガリータのほうが早くをみつけたようで、声をかけてきた。
「ありがとう、。こんな不思議なのもらったことないわ」
マルガリータの手の上で、折紙の鶴がパタパタと羽を動かしていた。はクリスマスプレゼントに悩んだ挙句、魔法の折紙で鶴を折ってマルガリータにプレゼントしたのだ。魔法の折紙というだけあって、紙はきらきらと瞬いて、生き物のように空を飛ぶ。
同じように、シリウスにはライオン、リーマスには狼、ジェームズにはチーターを折ってあげた。どちらも鶴のように空は飛ばないが、勢いよく走る上に噛み付いてきたりするので面白い物好きの三人なら喜ぶだろうと、は思っていた。
「私もありがとう。クリスマスっていいね」
は心底そう思っていた。
クリスマスの夕食は、普段と違って豪華だった。それこそ映画でしか見たことないような七面鳥の丸焼きや、ブッシュ・ド・ノエルなどクリスマスの定番料理が所狭しと並んでいる。はもちろん、こういったものを食べるのは初めてでどきどきしながら、七面鳥にかじりついた。おいしくて、自然に笑みがこぼれる。
ふと、顔を上げるとそこだけ「世界が終わった」かのように真っ暗な雰囲気の席が、視界に入った。周囲が笑顔で幸せふりまいているので、余計にその落ち込んだ部分が目立つ。いつもは率先して騒いでいるジェームズたちが揃いも揃って、「絶望」という文字を表現していた。
クリスマスがだるい、というわけではなさそうでごちそうだけは詰め込むようにして食べていた。それを、背の小さいそばかすのある金髪の男子がおろおろと三人を元気付けようと空回りしていた。
なにか気に入らないことでもあったのだろうか、とは考えながらかぼちゃジュースを飲み込む。その瞬間、ジェームズと目が合った。ジェームズはしきりに目でなにかを訴えているが、一向には理解できなくて、首をかしげた。ジェームズはちらり、とリーマスとシリウスを横目で見て、彼らに気が付かれない様に口だけを動かした。
「後で」
「わかった」
は同じように口ぱくで返事をした。
夕食が終わって、はジェームズと約束したとおり大広間の出口で待っていた。珍しくジェームズはひとりで広間からでてきて、をみつけて肩をすくめた。
「あの落ち込み具合は、なに?」
「どうもね……今朝、クリスマスプレゼントを見た瞬間からあんな感じさ」
「そんな変なものもらったの?」
どうだろう、とジェームズは首をかしげてやれやれ、とため息をついた。
「シリウスは実家からなんか言ってきたみたいで、それで欝になってるだけなんだけど……はリーマスに何をあげた?」
「ジェームズにもあげた、魔法の折紙で折った動物だよ」
そんな変なもんじゃないよ、とは眉を寄せて口を尖らせた。
「わかってるって。僕にはライオンをくれたろう。ありがとう」
ジェームズが屈託なく笑うので、もすねていた表情から笑顔に変わった。
「のプレゼントじゃないとするとなにが原因かな……」
ジェームズは顎に手を置いて思案し始める。
「リーマスは、プレゼントが少なめなんだ。両親と、僕、シリウス、ピーター、そして。五人からのプレゼントしか受け取ってない」
「確かにそういわれると……」
両親や親友が送ったプレゼントにそこまで落ち込むとは思えない。はやっぱり自分のプレゼントのせいじゃないのか、と思い始めていた。
「私、私ね……リーマスには狼を折ってあげたんだ」
ジェームズは驚いたように目を大きくした。
「かっこいいと思ったから。リーマスは狼が嫌いだったのかな?」
「さ……あ、どうかな? ……僕も、リーマスにそれとなく聞いてみるよ」
ジェームズは、何か一人で納得するとに、気にするなと言ってグリフィンドール寮に戻っていった。