はすぐに寮で同室のリリー・エヴァンスと仲良くなった。何をやるのも一緒で、二人で談話室でレポートを書いていたり、図書室で勉強している姿をよくみかけた。コンパートメントで始めて会話した男の子達とは、顔を合わせれば挨拶をしていたがそれほど積極的に達はかかわらなかった。彼らも異性と話すより、悪戯に時間を費やすことのほうが楽しいらしく上級生の女の子達が、彼らのことを異性として噂をしていてもどこ吹く風であった。
たまたまはリリーと一緒に歩いていないときに、同じ学年でスリザリン寮生のセブルス・スネイプと廊下ですれ違った。セブルスとは幼馴染といっても言いぐらいに、幼い頃は交流があったがホグワーツに入学してからは疎遠だった。それもこれも、がスリザリン寮ではなく、グリフィンドール寮に決まったからであった。それでも、さすがに無視することはできず、すれ違ったときにお互いに会釈するぐらいである。
今日もそんな調子ですれ違ったとき、セブルスの向かった廊下から爆発音に続いてまぶしい輝きが発せられた。は驚いて振り返りセブルスの姿を探した。彼が、廊下の真ン中でずぶ濡れになり苛立ちを含んだ声をあげた。
あまりの姿に、が声をかけようとしたのを遮るかのように嘲笑した声が廊下に響いた。その声には聞き覚えがあり、最近、声変わりでもし始めたのか声音が低くなり始めたシリウスの声であった。
「夏でもないのに、水遊びか? スリザリンはやることが違うな」
決して褒めているのではない、嘲笑する響きでもってシリウスがセブルスを貶めていた。どんな魔法を使ったのかはにはわからなかったが、ちょうど自分の反対側に悪戯仕掛け人たちが四人勢ぞろいしていた。彼らの誰かが魔法を使ったのは明白で、声にこそ出さないものの四人ともセブルスに対して悪戯が成功したことを喜んでいるように、には見えた。
「また、貴様達か」
ふん、とセブルスは嘲り笑って杖を軽く振るうとぬれていた服が、一気に元通りになった。
また?
は、セブルスの言葉に思わず方向転換しゆっくりと彼らに近づいた。
「僕たちとやろうっての?」
「陰気な野郎はかける魔法も陰険だからな」
セブルスが復讐のため杖を振ろうとしただけで、四人は悪態をついた。グリフィンドール寮の生徒がスリザリン寮の生徒を嫌っているのは有名なことであったが、さすがにやりすぎだと、は思う。
グリフィンドールの「勇気」とは嫌いな相手をいじめる勇気をさしているわけではない筈だ。
一触即発の雰囲気の中、ジェームズが唱えた魔法の対抗呪文をいち早く唱えたのはだった。魔法の効果が打ち消されたので、ジェームズは不思議そうに杖を見て、そしてセブルスの隣に並んだをみた。
「いい加減にしなさいよ。やりすぎだわ」
「なんだよ、スリザリンの肩を持つのか?!」
シリウスが呼気を荒くして、を怒鳴りつけた。その声にもひるまず、は自分より背の高いシリウスを睨み付けた。
「貴方達が子供だって言ってるのよ。人を困らせて楽しいの?」
「スリザリンが困ってるなら楽しいことこの上ないよな」
「それがスネイプなら特に」
シリウスとジェームズが意地悪い微笑を浮かべた。はリーマスとピーターを見たが、ピーターはオドオドしてから視線をはずし、リーマスはちょっと困ったような微笑を浮かべた。
「相手を貶めることが、グリフィンドールの勇気ではないはずよ」
「そんなに講釈垂れるお前は、どうなんだよ」
シリウスの挑発だ、とわかってはいるけれどいまさら、は引き下がれない。少しでも負けないように胸を張って悪戯仕掛け人たちを見据えた。
「セブルスは幼馴染よ。幼馴染と仲良くして何が悪いの?!」
へぇ、と意外そうな表情をしてジェームズが笑った。その笑い方もの気に触る。
「もう、やめとけ。。そんな奴らを相手にしているとお前の品格まで地に落ちる」
冷静なセブルスの声を聞いて、いままでかっとお腹の当たりを熱くしていたものが急激に冷えるのを感じた。は、最後の熱を追い出すかのように熱くて深いため息をついて、セブルスへ視線を向けた。
「行くぞ」
セブルスは悪戯仕掛け人たちを、憎々しげに睨み付けてローブを翻して目的の場所とは反対側の方向へ歩き出した。つられるようにして、もセブルスの後に小走りについていった。
「なんだよ、あいつ。次、ひっかけるのにしようぜ」
シリウスが苛立ちまぎれに、次の悪戯の標的を提案した。
「女の子をターゲットにしようなんて、珍しいこともあるね」
リーマスがやれやれと、去っていった二人の後姿を見ながら言った。
「ムカツクだろ、あの女。高潔ぶって。なにがグリフィンドールの勇気だ」
「シリウスは、彼女のことが嫌いかもしれないね」
ジェームズが理由知り顔でにやにや笑った。
「なに知ってるんだよ」
「・。悪名高き一族の次女。次期当主と目されている」
「まるで、シリウスの家みたいだね」
ピーターが余計なことを呟いて、シリウスからひと睨みされる。
「姉と兄と妹がいて、全員がスリザリン寮生。両親、祖父母もスリザリン生……彼女は、スリザリン寮生ではないことを後悔している」
「スリザリンでなかったことを喜んでないのか?」
シリウスが眉根を寄せて、ジェームズを問いつめた。
「さあね……なぜ、スリザリン寮生じゃないのかダンブルドアに詰め寄ったっていう有名な話があるから、喜んでないんじゃないかな」
「でもさ、スリザリンっぽくないよね」
ピーターが、去っていった二人の方向を見ていった。
「とにかく、次はアイツだ! アイツのことを探って、恥ずかしい思いをさせてやろうぜ」
シリウスの強引な提案に誰も否ということはなかった。気乗りしないのは確かだけれど、気に食わないのも確か、というところだろう。
一方、とセブルスは大広間まできていた。食事の時間ではなかったので、生徒たちが思い思いにテーブルに陣取りレポートを書いている。は、先に来ていたリリーに声をかけられ手を振り替えした。
「あら、ミスター・スネイプ。こんにちは」
リリーは、誰にでも分け隔てなく接する。とはいえ、さすがに対立しているスリザリン寮生には挨拶するのが精一杯のようだ。セブルスも、礼儀を遵守する性格だったのでリリーに対して慇懃に挨拶を返した。
「それじゃ、セブルス……私、レポート書くから」
「……さきほどは、すまなかったな」
ようやっとに聞こえるぐらいの声で、セブルスは謝罪の言葉を述べた。それが先ほどのことをさしているのだと気がついて、きょとんとしていたは、屈託ない笑顔を見せた。
「謝罪されるほどのことじゃないよ」
セブルスと同じように、口ぱくでしか通じないほどのか細い声で返事をしてはリリーと共にグリフィンドール生のたくさん座っているテーブルに向かった。
が椅子に座ろうとしたとき、スカートのポケットからピルケースが落ちた。リリーが親切にそれを拾い上げて、に渡すと、蒼白になったが慌ててピルケースを受け取った。薄い青色をして、中に入っている薬が透けて見えるそのケースは、なんの変哲もなさそうな白い錠剤が十粒程度入っているぐらいだったので、リリーはの態度に小首をかしげた。
「あ……いや……無くしたら困るものだったから、あせちゃって」
長年と友情を結んでいるので、あからさまな取り繕った言い訳にリリーは疑問を持ったが、それ以上追求するのはやめた。が何かしらの病気で、マダム・ポンフリーから薬を能くもらっているのは知っていたが、はその病気について触れてほしくなさそうだったからだ。マグルにも、病を友としている人が意固地になって、病気のことを話したがらないことはよくあることだったので、リリーはもそういうタイプなのだろうと思っていたのだった。
「それより、レポート片付けちゃいましょ」
リリーは話題を変えようとした。その台詞を聞いて、はどことなくほっとした表情を見せたのをリリーは見逃さなかった。